乗り物とは、乗ったモノを運ぶ為のものである。


このトロッコも例に漏れず、よたよたと飴細工の線路を走り出した。



「人が人たる為に人を殺すならそれは合法だが、殺すべき人の内に自身も
入れておくべきだ」



ツクネが唄う。

どうやら騒がしい連れができてしまったようだ。

煩いが、悪くはない。


二人ならば、一人よりできないことが増えるが、それは余程に気楽な束縛であった。



「言葉を誰かに届かせたいならば、自分に届かせてはならない。言葉とは伝える為にあるが故に、他の何かに伝わった時点でも言葉はやる気を半減させてしまうからだ」



楽しそうにツクネは朗々と歌う。


トロッコも合わせて歌い出す。


「薄苔色のレンガの壁に、涙色の屋根、年中花が枯れている庭にオフホワイトの大小屋がある家を見たと大人に言っても彼らは取り合わない。簡単に10万フラン5ドル8銭の家を見たと言おう。すると、彼らはとんきょうな声を上げこう言う。なんて素敵な家だ!」


一志は呟く。


「サ・ンテグジュペリ」


トロッコは気前よく、前車輪を外して押し黙った。





忌ま忌ましい沈黙が世界を包んだが、
一志の目的はハナからそこにあった。