一志はくじらと、無言で今生の別れをし、駅に向かった。


星の巡りが悪ければ電車が着いている頃だ。


一志と闇。
二人で歩く。


風の噂によると、闇はツクネという名前らしかった。
一志が名前を誉めると、照れたように尖った牙をガチガチと鳴らした。


ツクネは雪國の生まれで、生まれてこの方『一志』を捜して諸国を漫遊している。


しかし生憎に残念ながら、一志は今まで『一志』に会ったことがない。


力無くうなだれる一志に、ツクネは優しく、かつ容赦なく噛み付いた。

あまりの痛さに一志は


「8月19日25時43分」


と不満を述べた。


ツクネはバツが悪そうに首を傾げ、目を反転させ許しを請う。
一志はツクネの慌てる姿に少し可笑しくなって、目を細めた。



くじらの尻尾を通り抜け、駅に着いた。


電車は予想に反していなかった。


代わりに、トロッコが申し訳程度に置いてあった。

どうやら、終電の後だったようだ。



ツクネと顔を見合わせ、
同時にばらばらな溜め息を吐くと、


二人してトロッコに乗った。