吐いた息が白い糸となり後方に流れる。

その様子がやけに鮮やか――黒と白に拘わらず――だったことに驚き、彼は幾分か呼吸を止めた。


肩に食い込む荷物の重みを意識して、首を鳴らす。
先程から幾度となくそうしている。
そうでもしないと正気ではいられないような感じだった。


呼吸を再開する。
朝の澄んだ空気とは違って、鈍く重い。

いつもとは時間が違うだけなのに、自分が他の街に迷い込んだ気がした。


連なる車のヘッドライトが宝石のように見えた。
宝石は自分の身体を通り貫け、淡く痛んだ。


赤色の宝石が見え、自転車を止めた。
光の奔流がその向きを変えた。


これから、俺がどこに行くのかを誰も知らない。
これから、彼らがどこに行くのかを俺は知らない。

ただ、誰もが生きているという漠然とした事実が浮かんでいた。


青い宝石。

川の流れが止まる。


一志はひとつ息を吐き、ペダルを踏む為に足に力を入れた。