そんな桜を見に来る人はいない。 少なくとも私が知る限りでは。 この桜は他の木に囲まれるように立っているから、近づかなければ見えないのだ。 今の季節は山に登る人もいないし、誰もその存在に気付いていないのかもしれない。 それは、なんだか勿体ないような、でも独り占め出来ることを嬉しく思うような不思議な感覚。 いつか、教えたくなるような人が出来るかもしれない。 でも、今はまだ誰にも教えたくなかった。