「…はあ」
深いため息が、昼休みの静かな音楽室の中で、やけに大きく聞こえた。
あの電話から、ヒナの声さえ聞いていない。
…ただ連絡を待つだけでは駄目だ。
きっとヒナには、よっぽどの事があったんだ。
―学校が終わったらすぐに、ヒナの家に行こう。
私は楽譜に視線を戻し、意識をそこに集中させた。
何度も何度も、同じ曲を弾きつづけた。
それは、ヒナとの連弾の曲だった。
昼休みも残り20分程になったころ、ガン、と何かが打たれたような音がし、私は驚いて音のしたほうを振り返った。
一番奥の窓。
その向こうに、
信じられないものを見た。
―不機嫌そうにこちらを見ている男の子。
…トキだった。

