つぐない。
金銭や行為で相手に与えた損害をつぐなうこと―…
……すごく嫌な予感がしてきた。
というよりもきっと、トキの辞書の中には、私が首を全力で振りたくなるような内容しか載っていない。
冷や汗をかきながら、次のトキの行動を待つ。
「東子」
藍色が、胸を突き刺す。
目の前にある薄い唇が、徐々に弧を描いて――それが言葉だと、気付いた。
こんなときだけ、いつもはまったく役に立たない勘というものが当ってしまうのが私で。だからもう、小さく息を吐いて、心の準備を始めるしかなかった。
償いは、きっと―…。
頬にかかったトキの黒髪を、震える指先で横に流す。一瞬目を細めたトキは、その指をそっと掌で包んだ。
精一杯背伸びをして、長身のトキに届こうとするけれど、あと少し、足りなくて。
どうしようと焦る私の唇に、距離のあった温もりがさっきよりも近づく。
かすかに背を曲げたトキが、柔らかに微笑む。
きゅっと胸が甘く痛むのを感じながら、私は緩く弧を描くそれに自分の唇を重ねた。

