どれくらい、そうしていたのかは分からない。
何時のまにか閉じていた目を開けたときには、既に彼の顔はさっきよりも離れたところにあって、信号は青になっていた。
のぼせたようにぼうっとする頭を優しく撫でられて、手をひかれる。
一歩一歩と白線を踏むごとに、心臓がとくんと跳ねた。
……隣を、見れなかった。
恥ずかしさとか、嬉しさとか。そういった感情をごちゃ混ぜにしたものが、胸の中でぐつぐつと煮えたぎって、今、彼の顔を見たらそれが爆発してしまいそうで。
私は、ワンピースの裾とパンプスのつま先をじっと見ることで、何とか自分の鼓動だけは治めようと必死になっていた。
のに。
「そういえば、あの時」
まるで、何も無かったかのように呑気な声が、耳に届いた。

