最後の音の響きも消え、再び静寂に包まれた練習室。
私は鍵盤に指をのせたまま、固まっていた。

不意に隣から腕が伸びてきて――視線をそこに向ける前に、ぎゅっと、強く抱きしめられた。

頬に触れる、震える、肩。
耳に届く、微かな嗚咽。


ヒナが、泣いていた。


「やった…やったね、東子。取り戻したね。やっと…やっと」


嗚咽と一緒に、繰り返される言葉。

じわりと目頭が熱くなって、みるみるうちに視界が滲んでいく。
瞳から溢れ、頬を伝った熱いものは、やがて鍵盤にぽたりと落ちた。


ぱたぱたと、止まることなく、白と黒の列に落ちてゆく。


体の向きを変え、腕を伸ばして、私はヒナの背中に腕を回した。

うん、と強く頷いて、溢れる涙を拭うこともせず、ヒナの肩に顔を埋めた。





ただ声をあげて、二人で、泣いた。