「あの時は、私が無理なお仕事しちゃって、怪我の所為で出来なかったもんね。だから、リベンジ」 ひとつの椅子に二人で掛けたとき、ヒナが苦笑気味に言った。 胸の奥にちくりと小さな痛みを感じながら、私も笑って頷く。そして、ヒナの、はじまりの一音を待った。 窓から零れ落ちる陽の光が、何もおかれていない譜面台を照らす。 やわらかな風が、頬を撫でる。 すっと息をすいこんだとき 静寂に包まれた練習室に、澄んだ一音が響いた。