長い階段を登る。
光が入らず真っ暗だった階段も、上に行くにつれてだんだんと明るくなり、そろそろ廊下に出るのだろうか、思ったところだった。

「東子ちゃん…?」

懐かしい声が上から聞こえて、私ははっと振り返った。
視線の先には、私が立っているところよりも五段ほど上で、無邪気な笑顔でこちらを下ろしているハチさん。

今から帰るところなんだろうか、広い肩には大きなトートバックが担がれている。

…そういえば、ハチさんも、もう引退なんだ。

慌ててぺこりと頭を下げた私に笑いかけて、階段を降りてくる。
一段上まで来て足を止めたハチさんは、微かに首をかしげて問いかけてきた。

「今日は…部活見に来たの?」

「……あ…えっと…」

トキに会いに…なんて恥ずかしくて言えない!

「そ、そうです」

ぎこちない私の返答に、ハチさんはきょとんと目を瞬かせたあと、直ぐに何かを理解したように笑った。

ああ、トキに会いに来たのか、と。


―本当に私、何でこう、何でもかんでも考えていることがバレてしまうんだろう。