赤、白、ピンク、オレンジ。

初めて来たときと同じように、校門には色とりどりの花が植えられていた。日の光を気持ち良さそうに浴びて風に揺れている花々を見ながら、足を進める。

放課後の人気の少ない校舎の中に入り、廊下を歩く。
廊下は校舎よりも更に静かで、電気が消されて真っ暗な教室の前を、いくつも通った。

足音が響く静かな廊下を歩いていると、じわじわと記憶が蘇ってくる。

初めてここに来たあの日、校舎の窓ガラスが割れて、凄い格好をした人たちがバットや木刀なんかを持って、この校門から外に出ていったんだっけ。

それで、木に隠れていたところを勇太さんに見つかって…って、私、かなり怪しいな。

それに今思うと、よく制服を着たまま他校に入ろうとしたなあ、なんて。

そんなついこの前の自分に呆れつつ、記憶は更に進んで、出口が何処か分からないで迷っていたところをトキが助けてくれたことを思い出した。

真っ暗な廊下で迷っていた私に、ぶっきらぼうに声をかけて、それでもちゃんと案内してくれて――…その道の途中で、もうここには来るなって言われたんだっけ。

そこで、ふ、と口元が緩んだ。

だって、あの言葉は。
私のことを心配して言ってくれた言葉だったんだもの。

あのトキからは全く想像もできないことで、初めは兎に角驚いたけど。


胸がじわじわと温かくなって自然と緩みそうになる口元を掌で隠して、私は軽音部に続く階段を一段一段登った。


―気付けば、ライブハウスで出遭った日から、私の思い出の中にはいつもトキがいる。


素直じゃなくて、でもちょっとだけ優しい。
不機嫌そうな顔をしているトキが、いつも。