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レッスンが終わり、迎えに来た車で帰っていったヒナを見送ったあと、私はバス停までの道のりを一人で歩いていた。

既に秋を通り越した季節、頬を撫でる風は冷たくて。
冷たい指先をあたためるために、きゅっと手を握る。

外に出たことで、体は少しずつ冷えてきているのを感じるのに、反対に胸の中だけはあたたかく感じた。


さっきのヒナとの会話が、胸の中で児玉する。


「傍にいること…か」


小さく口にしてみると、途端にほんの少し気恥ずかしさが生まれて。
誰かのためにこんなふうに深く悩んだり、何かしたいと思ったりしている自分に、今更だけれど違和感と照れを感じた。


…私はずっと、何処かで、他人との壁を作っていた。
あのピアノ教室での過去から、他人が自分の中に入ってくることが怖くて。そう、ずっと。

触れることも、触れられることも怖かった。

傷つかないように、そうやって自分を守ってきた。

だけど、トキと出会って、傷を理解してくれる存在の大きさと、見落としていた、大切なことに気付いて。

そして私自身、トキの過去を知れたことで、勇気を出して歩み寄れば見えてくるものがあることを知った。