「……もっと、何かしたいって気持ちも分かるよ。分かる、けど。

見えない傷とか、抱えているものとかあるのかもしれないし…。

それを知るためにも、ただ傍にいてあげることが…今は一番、良いんじゃないかな」


天井を見上げそう言ったヒナは、思い出したように声をあげて、私は思わず肩をびくつかせてしまった。


「でも!佐伯くんは暫くそっとしておかなきゃ駄目だよ!」

「え?何で?」

これからもっと仲良くなれたらいいな、って密かに思っていたのに…。

私が目を見開くと、ヒナは悪戯っぽく笑った。


「だってきっと、今は傷心中よ」

「しょ…傷心中?」

「そ。鈍感な誰かさんの所為でね」


いったい、誰のことを言っているのか。

…鈍感?


首をかしげたところで、後ろのドアが開く音が聞こえた。


「東子ちゃん?レッスンの時間過ぎてるんだけど…って、あ!ヒナちゃん!」


視線を向けるとそこには、嬉しそうな笑みを浮かべた藤森先生が立っていた。


ヒナはそんな先生に照れくさそうに笑いかけて、おひさしぶりです、と小さく頭を下げた。




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