スタッカート




壁にかけられた時計の、チクタクという音だけがやたら大きく聞こえる静かな部屋で、ヒナは腕を組んだまま考え込む姿勢を直し、顔を上げた。


「ううん、なるほどねえ」

確かめるようにゆっくりと、唇が動く。

「佐伯くん、恋しちゃってるんだなあ…」

「え?」

「や、なんでもない」


首をかしげた私に、ふるふると首を横に振ったヒナは、暫く間をおいて口を開いた。


「東子、あのね?」


長い睫毛に縁取られた大きな瞳が、こちらを真っ直ぐに見つめる。


「トキくんと佐伯くんの間に、いったい何があったのか、私は詳しいことは知らないけど。

…でも確かに、東子は佐伯くんとトキくんが向き合う“きっかけ”になったのよ」


「きっかけ?」


「そう。人が出会うときって、何かしら“きっかけ”があるでしょう?佐伯くんの場合、東子がそれだったのね。…まあそれが何でなのかきかれても、私は答えられないけど」


訳が分からず首を傾げる私に、ヒナは顔の前で掌をひらひらさせると、可笑しそうに笑った。


「でも大丈夫。佐伯君の言葉の意味も、きっと、これからおいおい分かるよ。」


「そ、そんなものなの…?」


「そういうもんなのよ!自分でじっくり考えなさい!」


目を見開かれてそう言われ、迫力におされて上半身をのけぞらせた私に、ヒナはふん、と鼻で息を吐いて、私だって言いたいわよ、ここまできてるわよ、と喉を人差し指でつついた。


…よくは判らないけれど、どうやらこれは、どれだけ時間がかかっても自分で答えを出さなければいけないことらしい。