「自宅安静じゃないの…!?」
驚いて声を上げる私に、ヒナはふふふと笑い、淡いピンクのワンピースの裾を揺らしながら、一歩一歩近づいてくる。
「んー、そうなんだけど、何かもう家で寝てるだけじゃ退屈すぎて。久し振りに東子に会いたかったし、ピアノ教室にも遊びに来たかったし、来ちゃった」
可愛らしく首を傾げてそう言ったヒナに、思わずため息を吐いてしまう。
ヒナらしいといえば、ヒナらしい。
怪我で入院していたヒナはつい最近退院したばかりで、医者からはまだ自宅安静を命じられている。
入院中も、退屈だ、とまだ傷が塞がっていないうちから院内を駆け回ったりと、相当看護師さんを困らせていたらしい。
なので、きっと自宅安静は当然なんだろうけど…。
……確かに、家で大人しくしていることなんて、ヒナの性格からしてちょっと難しいかもしれない。
「でも駄目だよ!傷が開いちゃうかもしれないし…」
「だーいじょうぶ!抜糸したし、もう縫ったあともだいぶ薄れてきてるし!」
機嫌よく言ったヒナは、私の言葉をさらさらと流し、奥においてあった背もたれの無い椅子を一脚、私の隣まで持ってきて、そこにすとんと腰を下ろした。
諦めて息を吐いた私に、満足そうに笑う。
でもすぐに、眉を下げて私の顔を覗きこんだ。
「何かあったの?…東子のピアノであんな音、初めて聞いたよ」
心のど真ん中を突かれ、何も言えなくなり、固まる。俯いて自分の膝の上で握った掌に視線を落とした。
「東子は人より、感情が音にあらわれ易いもんね。……何か、悩み事でもあるの?」
隣から聞こえてきた、心配そうなその声に押され。
私はぽつりぽつりと、胸に溜まったものを吐き出した。

