「会って、はっきりさせたかったっていうのも確かにある。だけど、理由はそれだけじゃなくて…」


佐伯は深く息を吐くと、少し照れたように頬を赤らめ、鼻の頭をひと指し指で掻いた。


「伊上を“女の子”にさせるアイツに、興味を持ったんだ。今のアイツはいったい、どんな奴なんだろうって」

「…女の子?」


首をかしげて、もともと女の子だよ、と返すと、佐伯は驚いたように目を見開いた。


その表情からなんとか言葉の意味をつかみ取ろうと考えてみたけれど……わからない。

そんな私に、佐伯は

まあたいしたことじゃないから気にするな

と苦笑して。


そしてその表情のまま、ぽつりと零した。


「…まったくどうやって落としたんだよ、トキの奴。」


…それもやはり、よくわからなかった。


わからなかった、けれど。


佐伯の口から聞こえた「トキ」の名前が、以前よりもずっと、優しい響きに聞こえて。


私は密かに嬉しくなって、少しばかり緊張していた心がほぐれ、きゅっと結んだ唇が、ゆるゆると緩んだのだった。