佐伯は言い終わると、両手をフェンスにかけ、黙り込んで。

私はただ、その横で無言のままグラウンドを見つめていた。

……何も、言えなかった。

言ってはいけないのだと、思った。


今のトキを知り、自分を見つめなおした、佐伯。


…でも。


私は少しだけ、胸にひっかかったものがあった。


何とも向き合おうとしなかったと佐伯は言ったけれど、時間を経て、恨みや憎しみじゃなく、許したいという心も持った佐伯は。


迷いながらも彼なりに、自身に問いかけ、自分と向き合おうとしたのではないか。

ただ、彼には実際に会う、触れるということが、足りなかっただけで。

ぽつぽつとそう考えながら、私は、いくつものユニフォーム姿が走るグラウンドをぼんやりと見渡した。

「伊上」

不意に隣から名前を呼ばれて、視線を向ける。

さっきの苦しげな表情とは打って変わって穏やかな表情になった佐伯が、こちらを見つめていた。


「…ありがとう」




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