スタッカート


佐伯と並んで、廊下を歩く。

途中、周りにいた何人かの同級生がこそこそと何かを囁いていた。
私と佐伯の名前が時おり聞こえ、初めはいったいそれが何なのかわからず首を傾げていたけれど、佐伯の一言で、理解した。

「…悪いな。何か、勘違いされてるみたいで」

…成程。
カップルだと、思われているんだ。

というか、私のほうこそごめんなさいってかんじだ…。
こんな私と噂になっていい気分なんてするはずが無い。

私が佐伯の言葉を否定しようと、隣に立つ彼の方を向いた瞬間、何かが間に割り込んできた。
艶やかな黒髪、果実系のフレグラスの匂い。

「ちょっとー!二人とも何時の間にそんな関係になったの!?」

私と佐伯の肩のあたりに頭を突っ込んできたその人は

清水さん、だった。

「ちげーよ、馬鹿!」

慌てた様子の佐伯の声が、清水さんの顔の向こうで聞こえる。向こう側は遮られてしまっているので、彼の表情は見えなかった。

「馬鹿って何よ!つーか鼻の下伸ばしてんじゃないわよ!」

物凄い形相になった清水さんは、そう言ってすぐに私たちの間から顔を抜き、佐伯の背中を思い切り掌で叩くと、風を切るような速さで廊下を駆けて行った。

ぽかん、と口を開け目をパチパチさせてその場で固まる私の肩を、佐伯が遠慮がちに叩く。

視線を隣に向けると、眉間にぎゅっと皺を寄せた佐伯が、前方を睨み据えていた。


「……行くぞ」


…その頬は、何故か林檎のように赤かった。