コールのあと、聞こえたトキの声は、いつも通りの心地の良い低音で。
声が変わることなんてこの歳ならそう無いものだと思うのに、私はたったそれだけで、安心した。
会わない間に何か変わっていないかと、それが不安だった。何の根拠もないけれど、そんなことを考えてしまう。
「……会いに来る?」
佐伯の言葉をそのまま伝えたあと聞こえた声は、少し戸惑い気味な声色だった。
電話の向こうで見えるわけもないけれど、うん、と頷く。
何で?という質問に、これもそのまま佐伯の言葉を言うと、トキは余計に戸惑ってしまったのか、何か考え込んでいるのか、暫く、沈黙が流れた。
「俺が行く」
沈黙を破って、トキの声が耳に届く。
私はそれに首を振って
「佐伯が、どうしてもそれがいいって言ってたの。学校まで会いに行きたいって」
―断られても、絶対これは譲らないでくれ。
あの日、トキに連絡するという約束をした私に、佐伯はそう念を押した。
また暫く、沈黙が降りる。
「……わかった。」
電話の向こうで、トキが頷いたのが分かった。

