スタッカート



「ショックだった。

お前、そんな奴だったのかよって。
妹はあんなに素直にお前の事を信じて、慕っていたのにって」


眉間に皺を寄せ苦しそうにそう言った佐伯は、片手で額を押さえ、俯いた。


「…騙された気がしたんだ。信じかけていた自分が馬鹿に思えて、どうしようもなく、悔しくて。怒りだとか悲しみだとか…そんな感情が一気に胸の中に溢れて入り混じって、その時は自分でも処理しきれなかった。」


そこで佐伯はひとつ息をつき、暫し目を伏せるとしずかに目をあけて、再び口を開いた。


「…それから……すべてが終わってアイツが団地を出て、周りの大人からアイツの家の事情も全部聞いた。親が突然居なくなったこと、生活するために人のものを盗んでいたこと。

あんな小さな子供が一人で生きていくには仕方がないことだったんだろう。

…分かっているんだ。

アイツが全部悪いわけじゃない。
やりたくてやったんじゃない。

…それでも、あの時生まれた感情が大きすぎて、深く胸に刻まされていて、どうしても、消すことができなくて、未だにアイツのことを許せない自分が居る。


…だけど、ときどきそんな自分が物凄く嫌になるんだ。」


佐伯は、ため息とともに吐き出す。


「何で許せないんだ、何時まで恨んでるつもりだって。
情けなくなるし、自分の心の小ささに恥ずかしくもなる。いい加減もういいだろう、そう思う。」


佐伯は深く息を吐き間を置いて、私の眼を真っ直ぐに見つめて言った。


「……分からないんだ。アイツのことを許せない自分と許そうとする自分、両方がいつも衝突し合って。


…まだ、答えが出ない。

それなのに、

アイツの顔を見ると、そんな、黒い感情ばかりが出てくるんだ。」