「ばかじゃねえの」 顔を歪めて吐き捨てるようにそう言ったトキは、ピアノから飛び降りて静かに着地すると、早足で私の横を通り過ぎようとした。 反射的にその腕を掴んで止める。 びくり、とその肩が震えた。 「……離せ」 「……ヤダ」 「もう関わるな!」 「ヤダ!!」 苦しげに、眉間に皺を寄せたトキは、私の腕を乱暴に振りほどいて。声をあげた私の両肩にそっと掌を乗せると、俯いて言った。 「……傷つけてしまうかも、しれねえんだ」 その声もまた、微かに震えていた。