……デリカシー、という言葉がある。
心配り、気遣い。
例えどんなにひどい顔だとしても、もう少し、それにはあえて触れずに「大丈夫?」とかきける優しさはないのか。
……なんて。
あの佐伯にそんな事を思うなんて、私、相当……弱ってる。
そう自覚し、余計に切なくなってため息を吐いた。
「お前なあ、人の顔見てため息つくとか失礼すぎるだろ」
不機嫌そうな佐伯の声が耳に届いて、吐こうとした二度目のため息を慌てて飲み込む。
「…なんで、佐伯、ここに居るの?」
「は?ああ、塾の帰り。」
その応えにちらりとパンパンに膨れた鞄を見、なるほどと頷く。
「お前は?」
そう聞かれて私は返答に困り、黙り込んでしまった。
「喧嘩か?」
「……ううん」
「家出?」
「まさか」
「塾?……は、行ってないよな。それで成績優秀者なんだって有名なんだもんな、伊上」
言って、困り果てた顔をした佐伯は、暫く宙を仰いで考え込んだあと、突然、私の腕をぐいっと引っ張った。
「ちょっと…!佐伯!?」
慌てる私の反応なんか気にすることもなく、佐伯は、ぐいぐいと人で溢れる町の中を早歩で歩いていく。
「何処にいくの!」
「落ち着ける場所!」
振り返り、相変わらず感情の読み取れない無表情でそう返された。
そして
辿り着いた、先は。
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