夜の街は冷たくて、人工的な明るさの中、だからこそ別の暗さがあるようだった。
ずっしりと見えない何かが覆いかぶさっているような気がして、足取りは重かった。
一度止まり、ため息をついてまた当ても無く歩き出す。
そのとき。
「……伊上?」
聞き覚えのある声が、背後から、私の名前を呼んだ。
怪訝に思って振り向くと、肩から重そうな鞄を下げた佐伯琢磨が立っていて。
きょとん、と首を傾げる私に、佐伯もまた首を傾げた。
「何してんの?お前」
答えずに視線だけで返す私の顔を、佐伯は訝しげにまじまじと見つめた後、言った。
「ひどい顔だな」

