暫く宙を仰いで考え込む様子をしたあと、ヒナはゆっくりと口を開いた。


「……私も、あまりトキくんのことは分からないけど、何だろうな。

東子だったらきっと、踏み込めるような気がする」

「踏み込める…?」

「うん、何かね。

トキくんって、いつも何処かで他人と線をひいてるように見えて。

でも、話を聞いてると、東子といるときのトキくんって、何だかその線が他の人と居るときよりも薄く感じるの。

だから、もしかしたら……って」


その言葉に、私は眉を下げて首を振った。


「でも、そんな。……私なんて、殆ど他人みたいなものだもん」


知る権利なんて、無い。
友達でも…恋人でも無いのだ。

私と居るときのトキが、他の人と居るときとは違う――この言葉も、私の心にはすんなり入ってこなかった。

そんな私に、ヒナは深くため息を吐いて。

「何今更そんなこと言ってんのよ!」

と、声を荒げてそう言って、私の肩を掌でバシンと強く叩いた。