驚いてその声に振りかえろうとしたとき、私の頬を伸びてきたトキの指先が掠めた。
イスに座った私の背後に、私の体を後ろから包み込むようにして体を折り曲げ、トキが立っている。
「持ち方から何かおかしいんだよ、お前」
斜め後ろから聞こえる低音。
背中に感じる体温、微かに香る花の匂い。
それが彼の匂いだとわかり、顔が熱くなった。
…近い。
そう意識すると、ありえない速さで心臓がリズムを打ち始める。
背後から伸びてきたトキの手は、弦を不器用に押さえている私の指に重なって、
ズレたところを押さえてしまっている指先を正しい場所へと導いていく。
「力、抜け」
そう言って、ガチガチに固まった肩を、もう一方の手で軽く叩かれた。

