けれども。
トキ曰く「簡単にできるF」でさえも、私には難しかった。
一本ずつ定位置につけて、やってみるけれども、結局、必ず何処かがズレてしまって上手く音が出せない。
だんだんと、顔が険しくなっていくのが自分でも分かる。
真正面に座って私の手元を見ていたトキは、深くため息をついて――それに反応して目線を上げると、トキはイスから立ち上がって、私の横をスッと通り過ぎてしまった。
……呆れられた。
弦を押さえる指が、力をなくして緩んでいく。
ため息をついてうなだれる私に、背後から声が聞こえた。
「……教えるから、ちゃんと覚えろよ」

