…この、Fが。
曲者だった。
人差し指で全ての弦を押さえ、他の三本の指も別々の場所を押さえなければならない。
どう頑張っても、六本の弦すべてを押さえることができない。
悪戦苦闘していると、トキの指が、私の人差し指に触れた。
「……押さえる所を削ったり、そこで指二本でも使えるFもある」
……それならそうと、はやく言って欲しい……
眉間に皺を寄せて上目遣いで見上げると、小さくため息を吐かれた。
「…器用そうだからできると思ったんだ。それに、そのFだと使えない場合も出てくるから」
まあそこまで、本格的にやるかどうかは知らねえけど―
そう言って、トキはまた丁寧に、不器用な私を指導してくれた。

