―アルペジオ。
母がきいていたお気に入りのCDの中に、あった気がする。
穏やかな旋律が、ビニールハウスを包んでいく。
長い指が、弦を押さえ、弾く。
そこから、まるで魔法のように、美しい旋律が生み出されていく。
指に、音に……魅せられた。
優しく撫でるように、音を紡いでいく長い指。
視線と意識がそこに集中して
ふいに、その指に触れてみたい衝動に駆られる。
見えない何かに、引き寄せられるように
手を伸ばして―
あと、指一本分の距離
―…そこで
音が、ピタリと止んだ。
我に返り、視線をあげると、怪訝な顔で、こちらを見つめるトキ。
……一気に顔が、熱くなった。

