キーを差し込み、キックレバーに体重を乗せて思い切り踏み込む。

 単気筒エンジンは軽快に目覚め、リズムよい排気音があたりに響いた。泣きながら手を振る早由利。そして険しい表情で頷く老人をあとに俺は走り出す。

 バックミラーに映る早由利はずっと手を振っていた。切ない想いが胸を絞るように湧いてくる。

 あの老人がなぜ回りくどい事をしたのか分かるような気がした。

 たぶん、ずっとバイクが好きで、バイク乗りを愛しているからだろう。最後まで取り乱すことなく自分の道を貫いていた。

(最後に会えて良かったよ)

 既に夕闇が近づいてきた高速道路に再びエンジン音を響かせる。時計に目をやる回数が増える。もう立ち止まってはいられない。一路西へ。

 全開のアクセルにさらに力を込め、赤くなりゆく空を焦りの気持ちで睨みつけた。



 あと十三時間――