…なのに。
「あぁあ!!待って待って幸村君!」
俺の心と体は、背後から聞こえてきたその声にあっさりと引き止められてしまった。
不意打ち。
急に大声で名前を呼ばれ、その場で固まってしまう。
たったそれだけ。
それだけ、なのに。
………重症だ。
俺はそんな自分に半ば呆れ、ため息をつき声の主を振り返った。
すぐ後ろまで来ていた先生は、相当急いで出てきたのか顔を紅潮させ、サーモンピンクの小さな包みを俺の掌に握らせてくる。
指先に触れた柔らかな掌の感触に心臓がドクンと音を立てて脈打ち、危うく理性がふっ飛びそうになった。
「ハッピーバレンタイン!」
そう言い、満面の笑顔で俺を包みこんでくる。

