「じゃ…先生、またな」
いつものように無表情をつくり鞄を担ぎ直してドアに向かう。
表情も態度も、絶対に変えない。心を悟られてはいけない。
離れたくない。
もう少しだけ傍に居たい。
本心はいつも、隠したまま、「明日も来る」という一方的な約束をさりげなく口にして、ドアを開けるだけだ。
「またね、幸村くん」
先生の柔らかな声が、ドアを閉める寸前、僅かな隙間から零れ落ちてきた。
俺は深いため息をついて、靴箱からスニーカーを取り出し、くたびれた布地に足を押し込み、逃げるように廊下に出た。
いつもいつも
あの声に
存在に
押さえていた心が、掻き乱される。
それをぎりぎりのところで堪えるのは、かなりのストレスだった。

