喉の奥、思わず出かける
そこがいいんだ、という言葉を飲み込んだ。
ぼーっとしていたり、信じられないドジをしたり。
俺は、先生の、人よりもだいぶヌけているそういうところが好きだ。
……なんて、そんなことを言える筈もなく。
「卒業式まで、あと一ヶ月をきったのねえ…」
しみじみといった感じで、先生の赤い唇から漏れたその呟きが、俺の胸を締め付けた。
意識の彼方へとぶっ飛ばしたい、揺るがない現実。
俺は、来月この高校を卒業する。
「寂しくなるなあ、幸村君が居なくなるのは」
常連さんだもの―そう言って、先生は眉を下げ口元を少し緩めた。
本当にそう思ってンのかよってキレたくもなったが、でもそんなのは俺が勝手にすねているだけで、先生を困らせるだけだ。
わかっている。
わかっているから、言えない。
だって俺と先生は、たったそれだけの関係でしかないんだから。

