コガネ《短》




「あ、新入生?」

埃臭い本棚の前で適当に本を物色している俺に、細い腕に大量の本を抱えた先生がそう声をかけてきたのが、始まりだった。


「…や、3年なんスけど…」

俺は本棚から視線を逸らして、俺の隣に立ってこちらを見上げてくる先生にそう返した。

うすピンクの縁の眼がねの向こう、窓から漏れてきた午後の光を受けて、その瞳がキラキラと輝いていた。


先生は、こめかみに手を当てて少し左にズレ落ちた眼鏡を直し、もう一度俺の顔をまじまじと見ると、何かに気付いたように目を見開き、顔を真っ赤にして謝ってきた。


「…わわ!ごめんなさいっ!いやあのね?一年生にしては大人っぽいとは思ってたんだけど…!初めて見るなあと思ってつい…!!」


そう言って、何度もごめんなさいを繰り返してくる。
別にそこまで謝ることでもないし、慌てることでもない。


「…ふっ……はは!」


俺はだんだんとそんな先生がおかしく思えてきて、遂に必死に言葉を紡ぐ先生を前に、声を上げて笑ってしまった。

そんな俺を不思議そうに見る、くりっとした瞳。


とぼけた表情に、胸の奥が微かに疼いた。



…思えばその時すでに、心はそこにあったのかもしれない。