心の、ずっと奥

どれぐらい時間が経ったのか分からない。


私は、まだ太郎の胸の中で顔を埋めている。


何度も、優しく私の髪を撫でる太郎は、痺れをきらしたのか、また、優しい声で私に言う。


「サチ。とりあえず…さ、フェンスの向こう側に行かねえか?」


太郎の提案に、少しだけ頷いて、錆びたフェンスを二人で乗り越えた。


先に私が。その後に太郎が。


綺麗に並べていた上靴を私の足元に、そっと置くと、太郎はその場にドサッと座り込んだ。



「はぁ、俺、高い所苦手なんだよなー。」


突然出た、太郎の言葉。


それは、予想外の一言だった。


「バカ。」


ホントに、太郎はバカ。


思わず、笑ってしまったじゃない。