忘れてた、彼の存在を。

遅刻しなかった安心感で埋もれていた大問題。


思いの外通った声は皆の視線を集めた。


……しまった。


「どうした、楠」

「あ、いえ、何でもないです。はい」

「何だ、ついに頭おかしくなったか」

は、と佐倉先生に鼻で笑われた。

「……正常です」

失礼な。

何か言い返してやりたかったけれど、やっぱり後が恐いから止めておいた。












***


「そうだ、楠」

「はい?」

SHRが終わり、一時間目の授業の準備をしている時、佐倉先生に名前を呼ばれた。

「お前昼休み俺の所に来い」

「え、私何かしましたっけ」

呼び出しされる心当たりなんて――……、いや、あるか。

何せ私は数学の成績がすこぶる悪い。

どっちかというと文系の私にとって、数学はまさに敵。

テストは毎回赤点スレスレのラインを走っている。

つまり。

「補習だ」

「ぇえ!」

予感的中。

「馬鹿なお前の為に特別に課題を用意してやったからな。有難く思え」

「そんな、私のお昼休みが……」

小声で呟いた、チキンな私の精一杯の抗議も虚しく、佐倉先生は教室を出ていってしまった。