朝、葉子が生徒会室に入ると、ジャージを羽織った和葉が、飛び付いてきた。市販のスポーツメーカーのジャージだ。和葉には不似合いな、大きく地味な男物の。


どうしたのかと聞く葉子に、和葉は桜並木での話をした。襲われた事、そして救けてもらった事を。


「それでね、その男の子が、私にジャージを着せてくれて、学校まで送ってくれたの。」


まだ恐怖心が残っている和葉は、葉子にピッタリ寄り添いながら話をする。葉子はしっかりと和葉の目を見ながら、黙って話を聞いていた。


そして、話が終わると、

「無事で良かった…。」

とだけ、呟(ツブヤ)き、和葉を抱き締めた。和葉に葉子の温もりが伝わる。途端に、和葉の目に涙が溢れてきた。泣き続ける和葉の背中を、葉子は優しく撫で、泣き止むのを待った。


しばらくして、落ち着いた和葉に、葉子は言った。


「今日の挨拶は、私が代わりにやるから、和葉はここにいて。制服がそんなんじゃ、新入生の前に出られないわ。」


こうして挨拶は、副会長の葉子がする事になったのだ。