麻美のご機嫌がすこぶる良い理由。

 それはこの日の夕方、いつも通り仕事を終えて帰り支度をしている麻美の元に届いた彰人からのメールに、初めて「今度東京で会いませんか?」という一文があったからであった。

 
 見合いで初めて会ってから約一週間。

 取り立てて何かの話題で盛り上がることもなく、淡々とした日常の挨拶のようなメールのやり取りだけで、麻美はさほど彰人に惹かれてはいなかったのであるが、しかし彰人からの具体的な誘いは初めてであったし、時期も時期であったことから、何やら想像以上に胸が躍った。


 いつもはすぐに返事など返さない麻美であったが、今日は同僚と別れて自分の車に乗り込み、一人になると、
「ここから先の土日はずっと空いていますので、小島さんのご都合の良い日に合わせて上京します」
ーーなどと云った風に、何やらしおらしい返事を入れた。


 更にその後、車の中で再び受け取った小島から来た返信には、
「今週末は難しいので、来週末、土曜日のお昼にランチでもご一緒しましょう」
とあり、
「僕が店を予約しておきます」
といった一文と共に、麻美が東京で過ごした学生時代にはとても入ることの出来なかった有名店の名前があった。


 どれもこれも実に単純なことであるが、このところ落ち込んでいた麻美であるから、すっかり舞い上がってしまったのだった。