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 伊豆、下田。

 吉田麻美の自宅から海沿いの道を通り、車を二十分ほど走らせた先。
 近くはないけれど然程遠くもない場所に、麻美の父親の友人が開くクリニックはあった。


 どこかレトロな雰囲気を醸し出すその建物は、年代を感じさせる白色のタイルで守られ、穏やかに初夏の日差しを跳ね返している。

 片開きのドアの向こう、患者と向き合う風に備えられた受付カウンターを覗いてみれば、ピンク色のベストとスカートを着用し、事務員として働く麻美の姿があった。


 普段からそれほど派手な化粧をする麻美ではなかったが、ここでは更に肌や唇の色を押さえ、濃茶色をした長い髪は後ろでひとつに束ねられている。

 なんだかんだと口の減らない麻美であるが、その身が社会にあれば、守るべきルールはわきまえているようであった。