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 その頃、綾乃の姿はというと、町田にある自宅アパートの自室にあった。

 久しぶりにゆっくりと湯船につかりパジャマに着替えた綾乃は、溢れ出す倦怠感により朦朧とする意識を繋げ、先程ベッドの中に滑り込んだところであった。


 ベッドに横たわると、想像よりも自身の身体が疲れている事に気付かされる。

 思えば祥吾が倒れてから10日近くの間、祥吾の母親と祥吾の病室に泊まりこみ、あるいはこのアパートに戻る事があっても、眠ることのないまま朝を向かえ、そのまま祥吾の病室に戻るということを繰り返していたのであるから、それも無理のないことであった。


 「生きていたくない」と思いながらも、温かい湯船に浸かれば、体の隅々まで温もりが沁みる感覚をとても心地良いと感じたし、ベッドの中で丸まり柔らかな寝具に抱きしめられるようにしてくるまる時には、幼い頃から何ら変わることのない安心感を抱いた。


 心は行き場を探して彷徨うけれど、綾乃に帰る場所がないわけではないのだと、綾乃の体が綾乃自身にそれを教える。

 それを知るほどに、感じるほどに、綾乃は泣きたい気持ちになった。