「こんな嫌な体験、引きずらないといいけど」

冴子は心配そうに言うけれど、 
 
「残念ながら、もしかしたら私、ずっとずっとひきずるかもしれないわ。
 祥吾の事って云うよりは、もう恋も、結婚だって、当分は考えたくない感じよ」  
 
それが今の真理江の、一番正直な気持ちであった。
 
 
「そうね。
 そりゃそうよね……」
 
普通では体験し得ない辛いな目に遇ってしまった真理江の失意を改めて感じ、元来の明るさを何処かにやってしまった様子の冴子に、
 
「飲もっか?」 

真理江が珍しく、今夜は自分から二杯目に誘った。
 
「え、明日から仕事よ? 真理江、大丈夫なの?」

「明日の事なんて知らないわ!
  明日の自分を心配するより、今の自分を慰めてあげる方が先決だもの!」

 アルコールがそれほど強くない真理江が、乾杯で飲んだシャンパンで軽く酔っているのだと察した冴子は、「可愛い人だな」と思わず微笑んだ。