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 真理江は何度と携帯電話のディスプレイを見るが、そこに表示されているのは間違いなく見慣れた『祥吾』の名前。

 祥吾の携帯電話から流れる心の込められていないアナウンスを聞かされても、才女と評判の真理江を以っても、何が起きたのかすぐには理解できない。

 真理江はただ呆然と道の真ん中で立ち尽くしていた。

 そして、

「嘘よ、こんなの――…」

と小さく言うと、真理江はもう一度確かめるように、祥吾の部屋の窓に視線を戻した。


 しかしその真理江の縋るような目に映ったのは、真理江を現実に引き戻すのに十分な光景であった。


 祥吾の部屋の窓に備えられたカーテンが開いた。 

 そしてそれと同じに現れたのは、祥吾ではなく、真理江が全く見覚えのない女性であった。