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 午後三時。

 祥吾の出棺を見送った綾乃は、一人タクシーに乗り込み、今、祥吾の暮らしたマンションに来ていた。


 いつも通りに合鍵を使い入った部屋は、祥吾が生きていた頃と何ら変わらぬ殺風景なものであった。


 祥吾の留守を狙って毎週のように通い続けた、綾乃が生活するはずだった住処。

 綾乃の愛した部屋。


 祥吾に喜ばれないと知りつつも、何とかして祥吾と関わっていたかった綾乃は、訪ねる度に掃除機を掛けたり、祥吾の靴を磨き上げたりしては、祥吾に分かるように気配を残した。


 綾乃はこの部屋の中ことを、もしかしたら祥吾以上に知っていた。