中瀬は大桟橋を囲むようにして設けられた手すりにもたれ掛かると、
「僕、ここから見るこの時間の風景が凄く好きなんです。
実は僕、横浜の生まれで、ここが出来てからもう何回も来てるんですけど、不思議と全然飽きないんですよね。
あ、時々ここから富士山が見えることだってあるんですよ!」
と言って、西の方角を眩しそうに見つめた。
「ここから富士山が見えるの?」
真理江は驚いて聞き返した。
「こんなにビルが建ち並んでいるのに不思議ですよね。
富士山を見つけると嬉しくなって、思わず子どもみたいにはしゃぎたくなるんですけど……
でも――
この時間ここに男一人で来るのって、なかなかの勇気がいるんですよね…… 」
といって、中瀬は小さく周りを見渡すふうにした。
中瀬の背中を追い、歩くのに夢中になっていた際は気付かなかったが、改めて回りをみると、いつの間にか大桟橋の上にはたくさんの恋人たちが身を寄せ合うようにして、同じ景色を眺めていた。



