そそくさと入ったファーストフード店は、その周りの賑やかさからは想像できない程に静かであった。

 確かにわざわざ熱海まで来て、こんなどこにでもある店に入る観光客は少ないのであろう。
 昼時にも関わらず店内は空席が目立っていた。


 彰人はカウンター越しにやけに清々しく微笑む若い男性店員にSサイズのホットコーヒーだけを注文すると、2階にある禁煙のテーブル席に腰を下ろした。


 彰人は小さく仕切られたテーブル席に深く座ると、開放感に似た安堵からなのか深い息をはいた。

「腹減ったなぁ……」

 気の進まない見合いとはいえ、やはり何か食べていくというのは気がひけた。

「あぁ…、タバコ吸いてぇ……」

 それに加え、スーツにタバコの臭いが付く事をも気にかけているようである。