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 五月三日。

 ゴールデンウィーク初日のその日、熱海は晴天であった。

 見上げた空は抜けるように青く透きとおり、昼近くの熱海駅の構内を見れば、すっかり薄着になり色も華やかな衣を身につけた観光客で溢れ返っていた。


 そんな人ごみの中でただひとり、ダークグレーのスーツに身を包み、居心地が悪そうな顔をした人物。
 それはさっき熱海駅に降り立ったばかりの彰人であった。


 スーツを持参すると荷物になる事もあって、それが面倒であった彰人は、昨日まで会社に着て行っていたスーツを、今朝もそのまま着用し、毎朝の出社さながらに新幹線に乗り込んでいたのであった。


 東京駅では他の客に紛れ、存在感を全く消し去っていた彰人であったが、しかしここではそうは行かなかった。

 肩身の狭い思いで改札を出た彰人は、これからどうしようかと考えていた。