携帯電話は 昨夜から何度となく、意識が戻らず眠ったままの持ち主に着信を知らせていた。

 用心深い祥吾らしく、ロックがかけられたその携帯電話の中身を窺い知る事はできない。

 しかし、綾乃はその電話の向こうに女性の影をみていた。


 悔しい――。

 祥吾が生死をさ迷ってるこんな時でさえ、綾乃はそんな感情に支配されていた。


 そして、

「祥吾さんは私が看病します」

 静かになった紙袋を見据えたまま、綾乃は祥吾の両親にそう告げた。


「え……?」

 祥吾の両親は顔を見合わせて驚き、思いもよらぬ綾乃の決意に、ただ戸惑うのだった。







〜『悩めるベイビーたち』 綾乃〜