「御祖母様は昔『味の閻魔大王』と呼ばれ程、味に厳しい方だったのよ」

「ほー、それは……なむだぶなむだぶ」

「いや、三澤さん。拝む必要はないですし」

「ははは、今はただ死期を待つ老人じゃよ」

「そんな、御祖母様。めったなこと言わないでくださいよ……」


二人の前にシチューの皿が置かれた。
明らかに美味しい香りが漂ってくる。


「うひょー!」


テンションを上げる三澤に、長倉が囁いた。


「三澤さん……このシチュー、食べないで下さい」

「ん、どうした?」


三澤はシチューをスプーンで掻き混ぜながら聞いた。


「何らかの薬物が含まれています」

「お前、そんなの分かるのか?」


いぶかしげに、三澤。


「はい。通信教育で習いました」

「なんで、また……」

「それは……うちの事務所、いつ潰れるか分からないので、再就職の為に色々資格を持っていたら有利じゃないですか」


三澤は少し目を閉じた。


「………食べられるか?」

「少量なら」

「いただきまーす!」


三澤は、あろうことか皿ごと口をつけた。
一気に飲み干すつもりだ。


「ばっ、なっ、何やってんですか!」

「あぢっぃ!?」


長倉が咄嗟に三澤の腕を払いのける。


盛大にシチューがぶちまけられた。