いつものにっこり笑顔の湯川さんに、社内の皆は仕事に戻る。
「湯川さん、そんなに大きな声出るんだね」
美人だけれど、明るいというよりは、おとなしい感じの印象の湯川さんだから、俺は驚いた。
「冗談で言ったつもりだったんで…彼女さんて」
「俺って、彼女いないように見える?」
「だって水嶋さんって仕事人間って感じで…恋愛に興味なさそうだったから」
「あ〜そう?」
「水嶋さんて、社内でもすごく人気あるのに…きっとみんな知ったらすごくショックでしょうね」
「そんなお世辞いらないよ」
そう言って俺は、他の書類も湯川さんに渡した。
「これもコピーですか?」
「うん。お願いします」
「彼女さんて…」
「まだ話し続ける?」
「いえ…失礼しました」
湯川さんは、ペコっとお辞儀をしてコピー機に向かった。
湯川さんの方が社内で人気なのに。
ほら。
俺の隣のデスクの男も、俺を睨んでる。
「仕事しろよ、水嶋」
人気だな、湯川さん。
「コピー頼んでたんだ」
「水嶋、湯川さん狙ってないよな?」
「ただの部下だよ」
「なら、いいんだ」
そう言って隣のやつは、仕事に戻った。
「あっ!水嶋」
隣のやつが何か思い出したように振り向く。
「水嶋…結婚するって本当か?」