「…記憶はないけれど、私はお母さんに感謝してます。だって自分の命を懸けて、私を産んでくれたから…。いつも見守ってくれているような気さえします…」
「先生も、そう思う……お母さん、きっと愛空を見守ってると思うよ」
「絢音先生にこんな話してすみません」
「何で?愛空が話してくれて、嬉しかったよ?」
「なら、よかったです…」
「愛空ーーーっ!!」
後ろを振り向くと、若い男性が立って手を振っていた。
「お父さーん!もう仕事終わったのー!?」
愛空の顔がパーッと明るくなった。
愛空は走って、お父さんの膝に抱きついていた。
愛空の子供らしい、無邪気な一面を見た気がした。
「絢音先生ーー!また明日学校でー!」
愛空があたしに手を振り、愛空のお父さんは軽く会釈をした。
「また明日ねーーー!」
手を繋いで歩く親子の背中を、あたしはいつまでも見つめていた。
愛空がお母さんのことや、お父さんのことを話してくれて嬉しかったのはあるけれど、その半面やっぱり心配に思った。
お父さんを大切に思うあまり、頑張ろうとしすぎているのではないかと……
「……記憶かぁ……一緒にいた記憶…」
愛空の言葉を思い出していた
淋しいと思うのは
一緒にいた記憶があるから…?
愛した記憶が…そばにいた記憶が…
蒼……
あなたは今、何を思うの……?



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)