「…絢音ちゃんの所に…行くの…?」




涙で濡れた沙羅の顔。




この涙を、俺は決して忘れてはいけない。




これからもずっと…

一生忘れちゃいけない




「アイツじゃなきゃ…ダメなんだ…」




「……蒼が泣くのは…ずるいよ……」




涙を抑えられない




「…ごめん…本当にごめんな……」




沙羅のこと大切だった




本当に

本当に


大切なんだ




沙羅には絶対に

幸せになって欲しかった




大切に思えば思うほど


涙は止まらない




大切なモノは

ひとつじゃない




けどやっぱり

俺は




俺が心から好きだと

思うのは




抱き締めたいと

思うのは




絢音しかいないんだ……




ごめん……――






「いつ…出てくの…?」




「まだ…わかんないけど…でも出来るだけ…早く出ていくから…」




「そんなすぐに…?…淋しいよ……」




俺の胸にしがみつき涙する沙羅を、突き放すことはできなかった。




「少しだけでいいから…このままでいて……」




沙羅の震える声

震える身体




「……ん…わかった」




どうして

出逢ったんだろう




どうして

傷つけてしまうんだろう




大切なモノは

どうしてひとつじゃないんだろう……―――






そして、その夜




沙羅は

俺の前から姿を消した…――。